変形性膝関節症の治療法の代名詞とも言える、ヒアルロン酸注射。ひざの痛みや炎症を抑える効果があり、保存療法として最も頻繁に提供されている治療法の一つです。
しかし、効果を持続させるには定期的に打ち続けなければならないという難点も。こうしたことから、ヒアルロン酸注射をいつまで続けるべきか、漫然と続けてしまって良いものかとお悩みの方も少なくないと思います。
今回はそんなお悩みにお答えするとともに、ヒアルロン酸注射が効かなくなった場合の治療法をご紹介します。
目次
ヒアルロン酸注射とは
ヒアルロン酸ナトリウムという薬剤をひざ関節に注射する治療法です。
ヒアルロン酸注射の最大の目的は、膝関節の潤滑(滑りを滑らかにすること)です。そもそも、関節内の空洞を満たしている滑液(かつえき)にはヒアルロン酸が含まれています。しかし、加齢によって関節内のヒアルロン酸は徐々に減少していきます。骨と軟骨のこすれ合いを防ぐヒアルロン酸が減ることで膝への負担が増え、膝関節の動きも悪くなり、その結果、痛みが生じてしまうのです。
ヒアルロン酸注射は、膝にヒアルロン酸を補充することで、潤滑効果によって痛みを緩和し、膝の動きを改善します。
日本整形外科学会の変形性膝関節症診療ガイドラインでも、ヒアルロン酸関節内注射は膝 OA 患者において有用な場合がある[1]として、推奨強度は87%と位置づけられられています。
ヒアルロン酸注射はいつまで打ち続ければいいのか
ヒアルロン酸注射は、週1回の投与を5週続け、その後は効果に応じて2〜4週に1回というペースで行われるのが一般的です。
痛みに対する効果が得られている間は、治療を継続して良いでしょう。しかし、ヒアルロン酸注射は、変形性膝関節症の初期には有効ですが、進行するにつれて徐々に効果が得にくくなります。変形性膝関節症が進行し、ヒアルロン酸注射で痛みをコントロールできなくなった場合、感染や神経損傷のリスクがあるため、注射を繰り返すことはおすすめしません。
ヒアルロン酸注射とステロイド注射の違いは?
ヒアルロン酸注射に並び、ひざの痛みを緩和する保存療法として知られるステロイド注射。どちらも注射による治療法ですが、効果は大きく異なります。
ステロイド注射は、抗炎症と鎮痛作用に優れた治療法です。1回の投与で効果期間は2~4週間程度とされ、炎症が原因で膝に強い痛みがある場合に有効な手段とされています。ただし、ステロイド注射は続けて複数回投与すると、軟骨の新陳代謝を悪化させたり、軟骨損傷を引き起こす可能性があります。このような副作用を防ぐためにも、治療間隔や回数には充分に注意し、必要な時だけのスポット的な治療として使用するのが良いでしょう。
一方、ヒアルロン酸注射は先にも触れたように、関節の動きをよくすることで痛みを緩和する治療法です。変形性膝関節症の症状が軽度の場合に適応されるため、ひざの炎症や痛みが強い場合は鎮静作用のあるステロイド注射の方が有効とされています。
どちらの治療が適用になるかは、ひざの状態によって異なるため、整形外科医に正しく判断してもらう必要があります。
ヒアルロン酸注射 | ステロイド注射 | |
作用 | 膝関節の潤滑作用 関節の動きをよくすることで、痛みを緩和 |
抗炎症と鎮痛作用 炎症を抑えることで痛みを鎮める |
痛みへの効果 | 初期の変形性膝関節症には長期に作用する可能性あり | 強い痛みや水が溜まった状態に有効 |
治療のおススメ度 | 初期には〇 初期の変形性膝関節症の痛み緩和には効果的 進行期以降は効果は見込みにくい |
△ 急性の炎症や強い痛みに用いるケースが多い 軟骨破壊や感染のリスクあり |
もし、ヒアルロン酸注射が効かなくなったら?
変形性膝関節症のステージがある程度進行すると、ヒアルロン酸注射が効かなくなってくることがあります。このような時、保険診療で次に検討するのは、骨切り術や人工関節に代表される手術療法です。しかし、手術による体への負担や入院のこと、リハビリのことなど、様々な不安から決断できない人は少なくありません。加えて年齢や既往歴から、手術ができない人もいます。これまでは、こういった患者様に対して、漫然とヒアルロン酸注射を続けるしか方法はありませんでした。
近年、この状況に変化をもたらしたのが2015年に厚生労働省が認可した、再生医療等安全性確保法に規定される新しい治療法です。そのうちの一つである「バイオセラピー」と呼ばれる第三の注射を当院では専門的に行っています。
バイオセラピーとは一般的には再生医療とよぼれるものです。自身の細胞や組織を活用して、損傷した組織や臓器の修復を試みる医療分野で、とりわけ、変形性膝関節症の治療にはPRP療法や幹細胞治療が用いられます。
▶バイオセラピーについて詳しくは「変形性膝関節症の再生医療で膝の痛みを改善」も併せてご覧ください。
変形性膝関節症治療の新たな選択肢バイオセラピー(再生医療)
ヒアルロン酸注射が効かなくなってきたけれど手術は受けたくない方には、PRP療法と培養幹細胞治療という方法があります。
血液を活用するPRP療法
PRP療法とは、ご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、患部に投与する治療法です。ひざの痛みや炎症を緩和する効果があり、ヒアルロン酸注射よりも持続的な効果が期待できるという報告もあります[2]。
当院ではそのPRPを濃縮し、より効果を高めたPRP-FD注射を提供しています。傷の修復に作用する成長因子を多く含んでおり、変形性膝関節症の進行期の方にも効果的が期待できます。
当院でPRP療法を受けた方の治療効果
当院では、世界中で用いられている評価基準KOOS(クース)で、治療効果を調査しています。KOOSとは、42の項目で構成される質問票から、症状(Symptoms)、ひざの痛み(Pain)、日常生活動作(Daily living)、運動機能(Spo&Rec)、生活の質(Quality of Life)という5つの項目について点数をつけ、評価するものです[3]。それぞれ数値が高いほど良好な状態であることを示します。
調査の結果、注射前と比較してすべての経過観察時において有意に値が改善していることがわかっています。
皮下脂肪を活用する培養幹細胞治療
培養幹細胞治療は、自分の脂肪に存在する幹細胞を抽出し、ひざに投与する治療法です。抗炎症と疼痛抑制作用によって、ひざの痛みの軽減する効果があります。
人工関節など膝を切る手術を希望されない方でも、入院せずに治療を受けることができます。
こちらも当院で治療効果を調査した結果、すべての値で改善が確認されました[3]。
痛みは我慢せず自分に合った治療法を選びましょう
ヒアルロン酸注射で痛みが緩和されている場合は、そのまま継続しても問題ありません。しかし、効果が感じられなくなってきたら、それは今の治療法を見直すサインかもしれません。
今回ご紹介したPRP-FD注射や培養幹細胞治療は、自由診療(保険外診療)での提供となるので、費用面では負担がかかります。しかしヒアルロン酸注射が効かなくなってしまった、手術は受けたくない、といった方にとっては十分選択肢になると思います。
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膝の病気やケガは早期に適切な治療を行わなければ、進行して歩くことが困難になるケースも少なくありません。そうならないためにも、原因をきちんと調べておくことが大切です。
当院でも膝の違和感や痛みの原因がわからないと、ご相談をいただくことが多々あります。そういったときには、MRIひざ即日診断で詳しく調べて、何が原因か、どうすれば良いかをわかりやすくご説明しています。同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
コラムのポイント
- ヒアルロン酸注射は、変形性膝関節症の初期には有効
- 変形性膝関節症が進行するにつれてヒアルロン酸注射は徐々に効きにくくなる
- 効果がない場合は、再生医療という選択肢も
よくある質問
膝のヒアルロン酸注射に副作用や痛みはありますか?
稀ですが起こる可能性はあります。
ヒアルロン酸注射で使用する薬液は、関節内を満たす滑液に含まれる成分に近い構成で作られています。そのため重篤な副作用が起こることはあまりありません。ただし可能性はゼロではなく、注射後に局所的な痛みや腫れなどの症状が出ることもあります。多くの場合は経過とともに治まっていきますが、気になるようでしたら治療を受けた医療機関にご相談することをおすすめします。
また痛みについてですが、注射ですので針を刺す痛みはあります。ただ針の太さは採血用とほぼ同じくらいです。治療後に副作用以外で痛むケースとしては、関節の外の筋肉などに誤って注射してしまったことが原因に考えられます。稀ではありますが、こういった場合も医師にご相談ください。
膝にヒアルロン酸を注射した後は運動できませんか?
激しいスポーツなどの運動は控えてください。
ヒアルロン酸を注射すると、その効果から膝の痛みが一時的に緩和されます。そのため動きやすくなるかもしれませんが、膝の状態が改善されて良くなっているわけではありません。関節に負担のかかる激しい運動は、膝を悪化させることになりますので控えてください。
ただし、膝周りの筋力維持には努める必要があります。膝関節に負担のかからない適切な方法を確認しておきましょう。変形性膝関節症に有効な筋トレやストレッチをご紹介したコラムも参考になさってみてください。
膝にヒアルロン酸注射を打ち続けていますが、なかなか痛みが消えないのは失敗ですか。
失敗ではなく、変形性膝関節症が進行するにつれて徐々に効果が得にくくなるからです。
膝のヒアルロン酸注射を打つと、注入したヒアルロン酸によって関節の滑りがよくなるため、一時的に痛みが和らいでいる状態になります。あくまで”痛みが和らいでいる状態”が続いているだけなので、膝関節の損傷した部分の治癒には効果がありません。
そして、膝軟骨の破壊が進行してしまうなど重症化すると、ヒアルロン酸注射による効果はますます得られにくくなってきます。さらに、変形性膝関節症が進行し、ヒアルロン酸注射で痛みをコントロールできなくなった場合には、感染や神経損傷のリスクも考えられるため、繰り返しヒアルロン酸注射を打つことはおすすめしません。
もし、ヒアルロン酸注射による効果が得られないようなら、変形性膝関節症が進行している合図かもしれません。
実際の膝の状態と適切な治療方法を含めて確実な診断を行うためにも、一度MRI検査を受けることをおすすめします。
参考
- [1]∧日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会:変形性膝関節症の管理に関するOARSI勧告 OARSI によるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版).日内会誌.2017 :106,75~83.
- [2]∧Dai WL, et al. Efficacy of Platelet-Rich Plasma in the Treatment of Knee Osteoarthritis: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Arthroscopy. 2017 Mar;33(3):659-670.
- [3]∧大鶴任彦ほか.: 変形性膝関節症に対するBiological healing 専門クリニックの実際とエビデンス構築. 関節外科. 2020: 39, 945.
人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」
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