膝の裏が痛い場合、骨や軟骨、靭帯、筋肉などに異常が発生していることが多く、ベーカー嚢腫や変形性膝関節症、関節リウマチ、靭帯損傷などが代表的な原因として考えられます。
今回は、膝の裏にどのようなシーンでどんな痛みがあるのか、細かい症状別に原因をわかりやすく解説します。簡単にできる対処法もご紹介しているので、ご自身の症状と当てはめながらご覧ください。
目次
膝の裏が痛い原因
膝の裏の痛みは、運動障害、靭帯や軟骨の損傷、炎症、筋肉の問題、神経の圧迫など、さまざまな要因によって引き起こされます。また、生活習慣や体重、姿勢なども痛みの原因に影響を与えることがあります。
放置すると悪化する可能性があるため、早めの対処が重要です。まずは、当てはまる症状と考えられる病気を確認してみましょう。
膝の裏が腫れて痛い・コブができている
膝の裏がぽっこり腫れていると、曲げるたびに痛みや圧迫感、つっぱるような感覚を覚えることがあります。このような症状が起こると、膝の裏側だけでなく、ふくらはぎや太ももの裏側にまで違和感を抱くのも特徴です。ベーカー嚢腫や変形性膝関節症、関節リウマチ、深部静脈血栓症など様々な原因が考えられ、治療を急ぐべき病気のこともあるので、痛みや違和感がある場合は整形外科を受診することをおすすめします。
ベーカー嚢腫(のうしゅ)
膝裏がポッコリ腫れている場合は、ベーカー嚢腫と呼ばれるコブが原因として考えられます。膝関節は関節包という袋状の組織で包まれていて、その中は関節液という液体で満たされています。また、筋や腱などの摩擦を減らし滑らかに動かすために、膝関節内には滑液包と呼ばれるさらに小さな袋状の組織が存在します。何らかの要因で炎症が起きて関節液が異常に分泌されることで、膝裏にある滑液包内に溜まるとしこりが生じるのです。関節液は本来、関節のスムーズな動きを助ける役割を果たしていますが、過剰に分泌されるとこのようにコブのように腫れ上がり、痛みを伴うことがあります。
通常、腫れは次第に消えていきますが、嚢胞がゴルフボールほどの大きさになり、破裂すると痛みや腫れが生じることがあります。まれに周囲の神経や血管を圧迫して支障を来す可能性も考えられます[1]。また、これから紹介する変形性膝関節症や半月板裂傷、関節リウマチなどの病気と合併しているケースも少なくありません[2][3]。
変形性膝関節症
膝関節は、太ももの大腿骨とすねの脛骨を繋いでいる箇所で、それぞれの表面は、軟骨という組織で覆われています。軟骨の大きな役割は、ひざに加わる衝撃を和らげる、言わばクッション機能。変形性膝関節症はこの軟骨がすり減ることで発症する膝痛の代表的な病気です。60代以上の女性に多く、原因はさまざまですが、加齢や筋力の衰え、肥満などが挙げられます。
変形性膝関節症には、ひざを伸ばす動作で痛みが生じる他にも、以下の症状があります。
・階段の昇り降りが辛い
・ひざに水がたまる
・ひざから「ミシミシ」「ゴリゴリ」という音が鳴る
また、前段でお伝えしたベーカー嚢腫は、変形性膝関節症の最も一般的な原因という報告があり、併発している場合、痛みが強くなるという調査結果もでています[4][5]。
この疾患は痛みを放置していると、関節の変形がどんどん進み、歩行が困難になることもあるため、早期に適切な治療を受けましょう。
【ベーカー嚢腫、変形性膝関節症と診断を受けた方のMRI解説動画】
変形性膝関節症については以下のコラムも合わせてご覧ください。
▶朝起きると膝が痛い、それ変形性膝関節症かもしれません| 整形外科専門医コラム
半月板損傷
膝の裏が痛い原因の一つとして、半月板損傷が挙げられます。半月板は、膝関節内に存在し、膝の安定性や運動をサポートしている軟骨組織です。半月板が損傷すると、痛みや不快感が生じ、日常生活や運動に支障をきたす可能性があります。
原因は、怪我や外傷、加齢に伴う変形の他、長時間の立ち仕事や重い物を持ち上げるなど膝への過度な負担が考えらえます。
関節リウマチ
悪い細菌やウイルスを排除するはずの免疫細胞が異常をきたし、間違って自分の関節を攻撃して炎症を起こす、関節リウマチ。放置すると関節の機能が失われ、関節が変形してしまう恐れがあります。この病気は、膝に限らず全身の関節に症状が出るのが特徴です。
深部静脈血栓症
(エコノミークラス症候群)
深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)とは、長時間同じ姿勢を続けることで、血流が悪くなり、深部静脈に血栓ができる疾患です。ふくらはぎが痛むことが多いですが、血栓の位置によっては、ひざの裏が痛くなる場合もあります。
足の腫れ、痛み、皮膚の変色などが片足のみに現れた場合、この疾患である可能性があります。最悪の場合、死に至ることも考えられますので、長期間同じ体勢をとった後、急に呼吸が苦しくなるようであれば一刻も早く病院を受診する必要があります。
激しい運動による炎症
激しい運動をするとき、ひざには大変な負荷がかかっています。特に運動不足の方は注意が必要です。ひざを支える筋力が弱まっているため、急に酷使してしまうと、それだけで炎症を起こしてしまうことがあります。炎症を起こした膝関節は、正常に関節液を作り出すことができず、過剰分泌された関節液によってひざに水が溜まったり、ベーカー嚢腫を引き起こすきっかけとなります。
膝裏を伸ばすとピキッとした痛みがある
ひざが伸びる姿勢になると膝裏に痛みが生じる場合があります。膝裏の痛みを抱えている方に現れやすい症状ですが、安静にしていれば痛みが生じることは少なく、立ち上がりや歩行時などに痛みを覚えるケースが多いでしょう。痛みがひどい場合は日常生活に支障が出てしまうこともあります。
後十字靭帯損傷
ひざを伸ばすと痛い原因として、まず靭帯の損傷が考えられます。後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)は膝の裏の太ももの骨とすねの骨を繋いでいる靭帯です。スポーツや交通事故などで膝を強く打ちつけてしまった際に損傷するケースが少なくありません。
後十字靭帯は膝関節の後ろ方向への動きを制御する役割を担っているため、損傷によって膝関節が不安定になり、ひざを伸ばした際に痛みがでやすくなります。
参考コラム ▷ 後十字靭帯損傷の放置は危険【症状・治療法・リハビリを解説】
反張膝
反張膝(はんちょうひざ)とは、ひざが逆側に反っている状態のことを指します。反張膝の場合、必要以上に膝裏が伸ばされることで痛みが生じます。通常、ひざは真っ直ぐ伸びているものです。しかし、以下の特徴がある方は反張膝の可能性があります。
・体重のかかり方が足裏の後方に偏っている
かかとに重心がかかりすぎると、バランスを取るために足指が浮きます。すると、ふくらはぎの筋肉が硬直し、ひざが逆側に反ってしまいます。
・ひざを支える筋力が弱い
太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)と後ろの筋肉(ハムストリングス)の筋力バランスが崩れた状態も、反張膝へと繋がりやすくなります。
太もも前側の筋肉はひざを伸ばすときに、後ろの筋肉は曲げるときに使われます。つまり、太もも裏側の筋力が低下すると、ひざを曲げたり、伸ばし過ぎないようにする機能も低下してしまうのです。常にひざは伸びきった状態となり、反張膝を引き起こす原因になり得ます。
・ひざが反るような姿勢をとっている
例えばバレリーナが美しい姿勢をとるためやっている、つま先立ちでひざをピンと伸ばす姿勢。これは生物学的に、やや無理のある姿勢です。ひざには大きな負担がかかっており、反張膝の原因となることがあります。
歩行や正座で膝裏の筋が痛む
膝裏には様々な筋肉が集中しています。その中でも、正座や歩くと膝の裏が痛い原因とされるのが、ふくらはぎに繋がっている腓腹筋(ひふくきん)です。重心が前に傾くとこの筋肉が使われるため、正座や屈伸で痛みを感じやすくなります。また、そのような動作の多い、歩行や階段の上り下りでは特に痛みがでやすいのです。
また、腓腹筋は立っているだけでも使われるため疲労が溜まりやすく、傷めやすい筋肉と言えます。特に、走る・跳ぶといった要素が多いスポーツでは、瞬間的にひざの裏を伸ばすため、大きな負担がかかり痛みが生じやすいのです。ボールが強く当たるなど、打撲が原因で痛めるケースもあります。
しゃがんだり膝を曲げると裏側の
リンパが痛む
人の身体には老廃物を体外へ運ぶ機能を持ったリンパ節という器官が、全身に複数存在します。膝の裏もそのひとつ。この膝裏のリンパ節が歩循環不良で詰まると、腫れて痛みが生じることがあります。リンパは身体にとって不要になった老廃物や水分を排出するため、常に循環しています。しかし、冷えやストレス、運動不足によって流れが滞ってしまうことがあります。
痛み自体は強くありませんが、しゃがんだり、ひざを曲げる際の違和感が継続しやすいのが特徴です。
【動画あり】膝の裏が痛い時のストレッチ
膝の裏の痛みが軽度の場合は、ストレッチやマッサージなどのセルフケアを行ってみましょう。適度なストレッチは筋肉を温め、柔軟性を高めます。テニスボールや手のひらなどを使って、自分でマッサージすることも可能です。筋肉をほぐしたり血流改善が期待できるため、リンパの痛みを覚えている方におすすめです。
ただし、ストレッチで痛みを感じる場合やすでに医療機関に通院されている場合は、医師にご相談することをおすすめします。
方法はいくつかありますが、例として腓腹筋を伸ばすストレッチ方法と大腿二頭筋のマッサージ方法をご紹介します。注意点やポイントも解説しているので、併せてご覧ください。
痛みが続く場合は原因を特定、早期治療を
膝の裏に痛みが生じる原因疾患には、変形性膝関節症や関節リウマチ、後十字靭帯損傷などが考えられます。変形性膝関節症は早期であれば、生活改善や保存療法で痛みが軽減することも少なくありません。難病とされる関節リウマチも発症まもないうちに適切に治療を続ければ、痛みに悩まない生活も期待できます[6]。また後十字靭帯損傷は軽度であれば、経過観察しながらの運動療法が一般的な治療法です。
ただ、これらはすべて初期や軽度であった場合に限ります。進行していたり重度であれば、早々に治療を始めなければなりません。膝裏の痛みが気になったら、まずは整形外科を受診して痛みの原因を特定することが重要です。
膝の状態を正しく把握するためには、MRI検査がおすすめです。MRIは、レントゲンではわからない骨以外の関節組織の状態を知ることができます。当院では、MRI検査と専門医による診断が受けられるMRIひざ即日診断をご用意しております。
上記の症状に心当たりのある方は、以下のリンク、もしくはお電話よりお気軽にお問い合わせください。
膝の痛みのご相談をご希望の方は、はじめての来院予約からご予約いただけます。
コラムのポイント
- ひざの裏が痛む場合、ベーカー嚢腫や変形性膝関節症の可能性がある
- 適度なストレッチはひざの痛みを緩和する効果がある
- 痛みが長引く場合は、MRI検査で原因の特定し適切な治療を受けましょう
よくある質問
歩きすぎると膝の裏が痛くなり、腫れや浮腫みが数日間続きます。どんな原因や病気が考えられるでしょうか。
ひざが浮腫んでいるのであれば、関節液が溜まっている、もしくは炎症を起こしている可能性があります。
また、ひざの裏だけが腫れている場合は、ベーカー嚢腫も考えられます。
当院ではひざの状態に合わせて、実際にどのような状態か診断し、最適な治療法を提案させていただきます。
ご来院予約は「はじめてのご来院予約」よりお問い合わせください。
ひざの裏が痛いため、正座ができません。レントゲン検査でも異常が見つからなかったのですが、どうしたらよいでしょうか。
レントゲンの他にもMRIという骨の内部や軟骨、半月板、靭帯の状態を確認できる検査方法があります。
まずは、MRI検査を受けていただき、痛みの原因を特定することをおすすめします。当院では、MRI検査と医師の診察を受けられるMRIひざ即日診断をご用意しています。お気軽にお問い合わせください。
▶MRIひざ即日診断
参考
- [1]∧Erica K. et al. Compression syndromes of the popliteal neurovascular due to Baker cyst: A case report. Int J Surg Case Rep. 2023 Apr; 105: 108013.
- [2]∧Alyssa M Herman, John M Marzo Popliteal cysts: a current review 37(8):e678-84.2014 Aug
-
[3]∧Mert Köroğluk et,al. Ultrasound guided percutaneous treatment and follow-up of Baker’s cyst in knee osteoarthritis. Eur J Radiol
. 2012 Nov;81(11):3466-71. - [4]∧Ultrasound guided percutaneous treatment and follow-up of Baker’s cyst in knee osteoarthritis – Mert Köroğlu, Mehmet Çallıoğlu, Hüseyin Naim Eriş, Mustafa Kayan, Meltem Çetin, Mahmut Yener, Cemil Gürses, Bekir Erol, Barış Türkbey, Ayşe Eda Parlak, Okan Akhan 2012.
- [5]∧Clinical and ultrasonographic findings related to knee pain in osteoarthritis – E. de Miguel Mendieta, T. Cobo Ibáñez, J. Usón Jaeger, G. Bonilla Hernán, E. Martín Mola. Volume 14, Issue 6, June 2006, Pages 540-544.
- [6]∧Gerd R Burmester, et al. Novel treatment strategies in rheumatoid arthritis. Lancet. 2017 Jun 10;389(10086):2338-2348.
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