変形性膝関節症の手術の高齢者リスクを医師が分析|80代以上は要注意?

公開日:2022.07.25
更新日:

変形性膝関節症は年齢に関係の深い疾患です。特に女性に多く、70歳代は約70%、80歳代は約80%の方がひざの痛みで悩んでいます。進行すると手術を検討することになりますが、ご高齢の患者さまやそのご家族は「リハビリが無理かもしれない…」「合併症が起こるかも…」「手術で良くならないかも…」など、心配ごとも多いでしょう。確かに高齢になるほどリスクは高まりますが、だからこそ検討段階でしっかり把握しておくことが大切です。
このコラムでは、高齢者が考慮すべき変形性膝関節症の手術のリスクについて解説します。

情報提供医師

杉原 敦 医師

杉原 敦 医師(広島ひざ関節症クリニック 院長)

医学博士・日本専門医機構認定 整形外科専門医

グラフで見る手術ごとの高齢者比率

変形性膝関節症の手術と言えば、人工膝関節置換術をイメージする人が多いかもしれませんが、他にも関節鏡視下手術高位脛骨骨切り術といった手術方法が検討されるケースもあります。各手術の概要を下記の表にまとめました。それぞれ適応の目安はありますが、実際はどうなのでしょう?厚労省から発表されているデータをもとに見てみましょう。

<変形性膝関節症の各手術の概要>

関節鏡視下手術 高位脛骨骨切り術 人工膝関節置換術
手術方法 膝関節に1cmほどの穴を数カ所開け、関節鏡を挿入して洗浄や炎症部を切除する手術。 脛の骨の一部を削り取り、くさび型の人工骨を取り付ける手術。関節の変形を矯正する。 痛んだ骨を削り取り、人工パーツに置き換える手術。関節内の傷つきや変形を取り除き修正する。
入院期間 1週間 3~4週間 2週間~2か月
進行度の
適応目安
初期 進行期 末期
年齢の
適応目安
特になし 40代以降 60代以降
高齢者の懸念 進行していることが多く、改善が期待できない。 進行して関節の片側が保持されておらず、適応外になることも。 体力や合併症など、手術におけるリスクが高まる。

スクロールできます

関節鏡視下手術

関節鏡視下手術は膝関節に複数の小さな穴を開けて、関節内を洗浄したり、傷んだ半月板を切除したり、検査目的で行われたりします。変形性膝関節症の手術の中でも低侵襲な方法なので、特に年齢に制限はなく高齢者も適応となります。しかし、軽度の膝の痛みを緩和する治療法なので、変形性膝関節症が末期まで進行したケースの多い高齢者の場合はあまり効果が期待できないのが現実です。そのため定期的な手術を希望される方もいますが、少なからず関節内を傷つけてしまうため関節の線維化がエスカレートし、痛みを感じやすくなってしまう恐れがあります。
厚労省から発表されているデータを見ても、炎症緩和の目的で行う滑膜切除術、擦り切れやささくれを除去する半月板切除術ともに50~60代に多く、80代以降には件数が急減しています[1]

関節鏡視下手術(滑膜切除術/半月板切除術)の年代別件数のグラフ

高位脛骨骨切り術

骨切り術(下腿)の年代別件数のグラフ

膝関節にあたる部分のすねの骨を切開し、関節の傾きを矯正するのが高位脛骨骨切り術です。この手術の適応年齢はおおむね40代以降で、上限が決まっているわけではありません。ただし、この手術は関節の内側か外側のどちらかが保たれていることが条件になります。高齢者の場合、関節の両側に異常が見られることが多いので、適応外になることが少なくありません。
下腿の骨切り術のデータを見てみると、関節鏡視下手術より高齢者の割合は多く感じるかもしれません。しかしそれも70代までで、80代以降は大幅に件数が減少していることがわかります[1]

高位脛骨骨切り術は下記のコラムも参考にしていただけます。併せてご覧ください。
高位脛骨骨切り術|後悔しないための基礎知識~方法・適応から再生医療との併用まで~

人工膝関節置換術

人工膝関節置換術の年代別件数グラフ

手術件数が年々増加している人工膝関節置換術。骨の痛んでいる部分を取り除き、チタンやポリエチレンなどの人工パーツに置き換える手術です。変形性膝関節症が末期まで進行したケースにおいて有効とされる標準治療になります。人工物で経年劣化があるため再置換をなるべく避ける形で検討されるのですが、人工関節の寿命が15~20年ということもあり、60代以降に提案されることがほとんどです。
実際、他の施術に比べて80代以上にも多く施されていることが分かります[1]
これには、大掛かりな手術への不安から踏み切れず、高齢になったときに最終手段として決断されることが多いという背景も考えられます。

人工関節の膝手術については下記も参考にしていただけます。
人工膝関節置換術の術後について【合併症と生活上の注意点】

高齢者に起こりやすい人工膝関節置換術の5つのリスク

先のデータを見ても、高齢の変形性膝関節症患者がもっとも多い手術は人工膝関節置換術です。人工関節の耐久性が向上していることもあり、この割合は年々増加傾向にあります。ただし、増えているから高齢者でも安全というわけではありません。手術という医療行為に伴うリスクがなくなるわけではなく、むしろ高齢だと高まることがあるため、十分に気を付ける必要があるのです。
長期の入院となること、激しいスポーツや正座ができなくなるなどの日常生活での制限、全員が高い満足度を得られるわけではないことなど、高齢者でなくとも様々なリスクがある人工膝関節置換術ですが、特に高齢者の方が受ける場合のリスクとしては「長期間に及ぶリハビリ」「血栓症・肺塞栓」「廃用症候群」「感染症」「人工関節の緩み」の5つがあげられます。

リスク①長期間に及ぶリハビリ

人工膝関節置換術の術後は、数日間安静に過ごした後、人工物に置き換わった関節を自分のものにして歩けるようにするため、リハビリが必須となります。リハビリと言ってもいきなり過酷な歩行訓練を行うわけではなく、手術翌日はベッドの上で足を動かすことや、補助してもらいつつ車いすに移る練習などから始めます。その後は回復に合わせて立つこと、杖や平行棒、歩行器を利用しての歩行訓練、階段の上り下りといったリハビリ内容が一般的です。
こうした術後に欠かせないリハビリにおいて高齢者で危惧されるのが、体力面です。人工膝関節置換術のリハビリはだいたい2~4週間ほどかけて計画されます。基本的には回復具合や体調を見ながら無理のない範囲で進行しますが、高齢者で体力が続かない場合は進みが遅くなるでしょう。動きが少ないと筋力はさらに低下し、関節が拘縮して動きづらくなってしまう弊害も考えられるのです。また、退院後も日常生活に戻るまでは3か月ほどかかるため、その間は家族のサポートも必要になってきます。
病院にもよりますが、こうした高齢者の問題には余裕を持たせた人手やリハビリ時間で対応するところもあります。また、入院中のリハビリを家族に見学してもらい、退院後のサポートの参考にしてもらうような取り組みも見受けられます。

人工関節置換術後のリハビリ計画の一例

リスク②血栓症・肺塞栓

血栓症と肺血栓

血栓症とは、血液の塊りができて血管が詰まってしまう疾患です。同じ姿勢で長時間動かずにいることで起こるもので、エコノミー症候群という方が耳なじみがあるかもしれません。さらに、この血栓が血流にのって肺の静脈に運ばれて詰まると、肺塞栓を起こします。肺の血流が低下するため、呼吸困難や最悪の場合は死に至ってしまうこともあります。
手術後は誰にでも考えられるリスクではありますが、高齢者では回復が遅くて安静時間が長くなりがちなこと、脱水症状を起こしやすく血液が凝固しやすい[2]ことなどから、血栓症や肺塞栓のリスクが高まるのです。
血栓症の発生率に性別や手術の内容の関連は見られなかったけれど、年齢とBMI値に関連が見られたという報告もあります[3]

こうしたリスクを回避するため、手術後の早期離床に向けリハビリをサポートしたり、着圧ストッキングや空気で圧迫するフットポンプを使用したり、血液が固まりづらくなる薬を点滴するなどの処置が施されます。

リスク③肺炎や骨粗しょう症などの廃用症候群

安静にすることで心身活動が低下し、様々な器官や組織で機能障害が生じることを廃用症候群と言います。手術後は誰でも安静にしますが、高齢者は加齢によってもともと機能が弱っているため、通常より発症のリスクが高いと考えられるのです。先にあげたリハビリ面で懸念される筋力低下や拘縮、また血栓症なども廃用症候群のひとつですが、他にもいくつか症状があります。

<廃用症候群で見られる主な症状>

器官 症状
運動器系 ・筋力の低下
・筋萎縮
・関節の拘縮
・骨粗しょう症
循環器・呼吸器系 ・深部静脈血栓
・肺血栓
・誤嚥性肺炎
・心機能の低下
消化器系 ・食欲の低下
・便秘
自立神経・精神 ・情緒不安定
・記憶力の低下
・うつ状態
・せん妄
その他 ・じょく瘡(床ずれ)
・尿路結石
・尿路感染症
・逆流性食道炎

リスク④感染症

感染経路の例

人工関節に細菌が感染すると、痛みや腫れ、感染が原因で徐々に周辺の骨が溶け始めると人工関節の緩みなどの症状も現れ、人工関節を入れ替える手術が必要となることがあります。手術中に感染すると思われるかもしれませんが、実は手術後に虫歯や水虫皮膚や尿路の感染症肺炎などから血流を介して感染することもあります。日本整形外科学会の研究プロジェクトの調査報告によると、日本での初回手術での発生率は1.36%[4]、海外の報告を見ても1~2%です[5][6]
また、リウマチも患っている場合などはステロイドを使用していたりしますが、ステロイド使用例では感染率が約2倍になるとの報告もあります。ただ、合併症率や免疫力から高齢者ではリスクの高まりが懸念されるので、より一層の注意が必要となります。予防策として手術前に抗菌薬を投与したり、手術室や機材のクリーンレベルを保つなどがありますが、術前後問わず患者さま自身が虫歯や感染症予防に努められることも大切です。

リスク⑤人工関節の緩み

手術の際は人工パーツと骨とをしっかりと固定しますが、人工物なので長期の使用で接着面にゆるみが生じることがあります。膝関節を酷使するような動きをしたり、重いものを頻繁に持ったり、体重が急に増えたり、転倒したりなど原因は様々ありますが、高齢者の場合は筋力低下も関連が深いと言えるでしょう。
また、人工関節の固定法が関係することも考えられます。固定法は2種類で、骨に直接埋め込むことでしっかり固定されるまで時間がかかるものの固定されれば緩みにくいセメントレス固定と、骨セメントという固定剤で手術直後は強固ながら経年劣化ですき間が生じやすいセメント固定があります。高齢だと骨の強度が落ちているケースも見受けられ、その場合はセメント固定が選択されることが多いのです。つまり、人工関節の緩みが起きやすい懸念が手術段階から高まることになります。緩みが大きくなると再置換の手術が必要になってきますが、再置換術は感染症など他のリスクの可能性も初回より高くなってしまいます。
そうならないためにも、高齢者はより術後の生活で転倒に注意したり、膝を労わることを意識することが大切になります。

人工関節の固定方法

手術が怖くても膝の痛みをなくしたい!今はそれが可能

膝に注射をするイメージ

人工膝関節置換術は、症状においても日常生活の動作においても大幅な改善が期待できる手術です。ただし、その満足を全員が得られるわけではなく、また先にあげたようなリスクをなくすことはできません。そうした不安から数年前までは、そのまま膝の痛みを放置してさらに進行してしまうケースもありました。しかし昨今では、手術より低リスクで、ヒアルロン酸注射やステロイド注射などの保存療法りよりも効果が期待できる、新たな保存療法「再生医療」を選択する方も増えてきています。
変形性膝関節症の再生医療とは、患者さまご自身の体内から有効な細胞や成分を抽出して、関節内に注射するという治療法です。高い抗炎症作用や組織の修復を促す作用が期待でき、実際に膝の痛みの改善が長期的に維持されていることもわかってきています。[7]
当院でご提供しているのも、再生医療による治療法です。手術と再生医療とどちらが自分に合っているか調べてほしいという場合は、MRIひざ即日診断からご相談いただけます。

MRIひざ即日診断

そのほか、再生医療がどんな治療か知りたいなど、どんな些細なことでもご相談いただければ、膝の手術と再生医療の両方の経験を持つ医師が詳しく診させていただきます。お電話でも初めてのご来院予約からでも、お気軽にお問合せください。

はじめてのご来院

コラムのポイント

  • 変形性膝関節症の手術の中でも、高齢者は人工関節置換術の割合が多い
  • 人工関節の手術のリスクは、高齢になるほどリスクが高まるものが多い
  • 手術が怖くても放置は厳禁!今は再生医療という選択肢もある

よくある質問

高齢ですが、再生医療は受けられますか?

もちろん可能です。90歳以上の治療例もあります。
膝の再生医療には、患者さまの血液を利用した治療法と脂肪を利用した治療法があります。どちらも少量の血液や脂肪を注射器等の器具で採取し、有効な成分や細胞を注射器で関節内に注入するというものです。人工関節置換術のように全身麻酔で入院して行うものではなく、部分麻酔で日帰りでの治療になりますので、体への負担が少なく抑えられます。そういったことからも、膝の痛みが強くヒアルロン酸注射は効かなくなっているものの、手術はリスクを考えると踏み切れないという高齢の方が検討されることの多い治療法と言えるでしょう。当院でも高齢の患者さまは多く、90歳以上の方の治療も複数例経験しています。
ただ、再生医療で改善効果が得られるかどうかは、治療前の膝関節の状態が深く関係します。その点はMRI検査で詳しく調べ、これまでの症例データも参考にしつつ、効果が見込めるかを事前にご説明いたします。もし関心がおありでしたら、一度MRI診断でご相談ください。患者さまに適した治療をご提案させていただきます。

MRIひざ即日診断

持病があると変形性膝関節症の手術は受けられませんか?

重度の糖尿病や認知症の方以外は、基本的には可能です。
糖尿病で血糖値のコントロールがうまくできないということは、細胞に栄養である糖分が届きにくい状態であると言えます。そうなると白血球などの免疫反応が弱まってしまい、感染症を引き起こすリスクが高まるため、人工関節置換術のような大掛かりな手術は適応外となります。また、認知症の方の場合はご自身で手術の内容を理解したりリスクに同意することができないこと、術後スムーズにリハビリに意欲的に取り組めないことなどが予想されるため、手術が難しいと言えます。
それ以外であれば、脳梗塞や心不全などの基礎疾患があっても、基本的には手術を行うことは可能です。ただし術後の合併症などのリスクが通常より高まることは否めないため、事前に医師と十分に相談したうえで決断することをおすすめします。

再生医療を受ければ人工関節の手術をしないで済みますか?

変形性膝関節症が進行すれば手術ですが、進行を遅延させることができます。
現時点で分かっている再生医療の膝関節への効果としては、次の2点がわかっています。
①抗炎症作用が高く、痛みの改善効果が長期間続く。
②組織の修復を促す反応が得られるため、軟骨の破壊を抑制できる。
つまり、変形性膝関節症になる前の健康な膝関節に戻すことはできませんが、今ある痛みを緩和し、進行を遅らせる効果は期待できます。実際、ヒアルロン酸注射で改善できなかった痛みが軽減されたという症例はたくさん確認できており、ヒアルロン酸注射と手術の間を埋める選択肢として需要が高まっています。
日常生活での負荷や加齢による関節組織の衰えなどはなくすことはできないため、変形性膝関節症の進行を完全にストップすることはできません。ただ、再生医療で痛みを改善し、膝関節への負荷を少なくする生活や運動に努めれば、手術を回避することも可能だと考えています。

人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」

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