運動しているとき、ちょっと動いたとき、膝のお皿の上の方が痛いという症状はとても多いお悩みのひとつです。この症状だけだと原因はいろいろ考えられますが、詳しく症状を見てみると疑わしい疾患がわかってきます。なにが原因? どうすれば治る? 自宅でできる対処法は? 膝上の痛みに関する様々な疑問をお持ちの方々に向けて、専門医がわかりやすくご説明します。
目次
膝の皿の上が痛いのはなぜ?
膝の皿の上部に痛みが生じる場合、大きく2つの理由が考えられます。
・腱や靭帯の炎症
・関節内の炎症
主に原因として疑われるのは、大腿四頭筋腱付着部炎(ジャンパー膝)、膝蓋大腿関節症、滑液包炎、変形性股関節症の4つのケガや病気です。
<膝の上の痛みの原因とその概要>
原因となる疾患 | 痛みが生じる理由 | 膝上の痛み以外の 症状 |
年齢や性別の 傾向 |
治療法 |
大腿四頭筋腱 付着部炎 |
大腿四頭筋と膝蓋骨をつなぐ腱に起こる炎症 |
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10代男性に もっとも多い 20~30代でも見られる |
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膝蓋大腿関節症 | 軟骨がすり減って起こる関節内の炎症 |
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50代以上の 女性に多い |
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滑液包炎 | 関節内の摩擦や衝撃を軽減するための液体の入った袋状の組織の炎症 |
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年齢や性別に 関係性なし |
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変形性股関節症 | 軟骨や骨が傷んで発症すると、股関節以外にも痛みが及ぶことがある |
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発症の平均は40~50代 女性に多い |
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今すぐ痛みを軽減したい方の対処法
痛みがあると冷やしたり温めたりしがちですが、間違えると逆に痛みが増してしまうこともあります。一般的にはけがをした直後の急性期は冷やす、そこから2~3日たった慢性期以降は温めるのが良いでしょう。また、オーバーユースが原因に考えられることもあるため安静にすることもひとつですが、なにもしないでいると関節が拘縮して硬くなってしまうことがあります。そうならないためには、関係する筋肉のトレーニングやストレッチを行うと良いでしょう。
膝の上が痛い場合は、太もも前面の大腿四頭筋の影響が大きく、ここへのアプローチで症状が軽減されることがあります。また、膝を固定することで痛みを和らげられるケースがあるため、テーピングも有効です。セルフケアとして、これらの代表的な方法をご紹介します。
①急性期は冷やす/慢性期は温める
②オーバーユースの場合は安静に
③太ももの筋トレ・ストレッチ
④テーピングで膝を固定
大腿四頭筋のトレーニング
関節の内外で起こる炎症が痛みの原因のため、膝への負担が増加すると症状が悪化しかねません。できるだけ膝に負荷がかからないトレーニング方法を選びましょう。
そのひとつが、セッティングという大腿四頭筋の筋トレ方法です。ご用意いただくのはバスタオルが一枚。足を伸ばして床に座り、丸めたバスタオルを膝の下に挟み込みます。次につま先を天井に向け、タオルを押しつぶすように大腿四頭筋に力を入れて膝を伸ばします。このとき、かかとが浮いてしまったり、つま先が曲がってしまわないよう気をつけましょう。
他にイスに座って行うトレーニング方法もあります。同じように丸めたバスタオルを太ももの下に挟み、足首を天井に向けながらゆっくりと足をあげます。このとき、太ももでタオルをつぶすように意識すると効果的です。太ももが浮いたり、背中が丸まらないよう意識してください。
どちらもタオルを5秒間つぶして戻す動作を20回、3セットほど行うと良いでしょう。
大腿四頭筋のストレッチ
いくつか方法はありますが、立った姿勢で行える方法をご紹介します。まずは壁や机、イスなど、手をついてバランスをとれる状態をつくりましょう。次にストレッチする足の膝を曲げて足の甲を持ち、ゆっくりとかかとをお尻に近づけます。このとき、大腿四頭筋が伸びているのを感じるはずです。曲げた膝が体より前に出ていたり、腰が反らないように気をつけてください。手で足首を持つ姿勢がつらい場合は、タオルを足首に引っ掛け、それを引き上げる方法でも行えます。
膝関節のテーピング
膝のテーピングは膝を軽く曲げた状態で、少し引っ張りながら貼っていくことがポイントです。まず膝下の外側からお皿の内側を通って太ももの外側へと1本目を貼ります。次に膝下の内側からお皿の外を通って、そのまま太もも外側へと2本目を貼ります。最後に1本目の少し上に半分ほど重なるように、膝下外側から太もも内側へと貼ったら完成です。
健康な筋肉と同じ伸縮率を持つというキネシオロジーテープでは、筋肉の動きをサポートしたり血流の改善が期待できると言われています。そういったテープでテーピングするのも良いでしょう。
原因別に見る膝の痛みの治療法
ご自宅でできるセルフケアでの改善を期待される方は多いと思いますが、原因が様々考えられるので、できれば病院での診察や検査で痛みの正しい痛みの原因を突き止め、それを治療することが理想的です。参考までに膝の上が痛い場合に考えられる疾患について、その治療法と合わせて少し詳しくご説明しておきましょう。
大腿四頭筋腱付着部炎/ジャンパー膝
【どんな人に多い疾患?】
・10代~30代男性
・バレーボールやバスケットボール、ランニングを行っている
・膝上を押すと痛い
【どんなケガ?症状は?】
大腿四頭筋と膝のお皿である膝蓋骨をつなげている腱に炎症が起こる疾患で、膝の上が痛い場合にまず原因として疑われます。ジャンプ動作の多いバレーボールやバスケットボールの競技に多いため、ジャンパー膝とも呼ばれています。ジャンパー膝では膝の下の痛みがもっとも多いのですが、膝上も膝下に続く好発部位なのです。
膝の上の痛みの他には、膝上の圧痛や熱感や腫れを伴うことがあります。また、うつ伏せになってかかとがお尻に着くように膝を曲げると、痛みから逃げるためにお尻が持ち上がる現象が見られます。
【なにが原因?】
まずオーバーユースが考えられます。ジャンプやランニングといった膝が伸びる動作では大腿四頭筋の引っ張る力が欠かせないのですが、オーバーユースによって過剰にその力が大腿四頭筋の腱の付着部にかかると炎症が起こるのです。また、筋肉が硬く伸びが悪いことでより発症しやすくなります。大腿四頭筋が硬いと膝を伸ばしたときに患部が必要以上に引っ張られてしまい、ダメージを負いやすいためです。10代に多いケガなのは、骨の成長と筋肉の柔軟性が伴っていないためとも考えられるます。
【どんな治療法?】
治療法は痛み方で変わってきます。例えば運動後だけ膝が痛い場合は必ずしも安静が必要なわけではなく、大腿四頭筋のストレッチや運動後のアイシングを徹底し、運動中はサポーターやテーピングを使用することで様子を見ます。ただ、運動前後に痛むようになれば、ジャンプ動作などを控え、先にご紹介した筋トレやストレッチが必要です。さらに運動がつらいほどの痛みになれば、運動自体を休むことが望ましく、筋肉のバランスなども見ながら適したストレッチ等を行います。腱が断裂するケースは稀ですが、その場合は手術で治療することになります。
膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう)
【どんな人に多い疾患?】
・50代以上の女性
・立ち上がるときや階段でお皿の辺りがこわばる、痛い
・膝を曲げ伸ばすとお皿周辺で音が鳴る
【どんな疾患?症状は?】
膝蓋大腿関節症は、膝のお皿(膝蓋骨)と太もも(大腿骨)の間の軟骨がすり減ったり骨が傷ついたりすることで、膝上や前面の膝頭に痛みが生じる疾患です。進行すると膝の曲げ伸ばしができなくなり、日常生活にも支障が出てきてしまいます。
動き始めのこわばりや痛み、階段の上り下りのつらさ、ギシギシと膝で音が鳴るなど、大腿骨とすねの骨(脛骨)の間の関節で起こる変形性膝関節症と症状は似ていますが、どれも膝蓋骨周辺に生じることが特徴的です。
【なにが原因?】
加齢や筋力低下、膝の屈伸運動の頻回な繰り返しなどがあげられ、変形性膝関節症による脛骨大腿関節の変形に伴って起きることも少なくありません。
また、膝蓋骨は大腿骨の溝のように窪んだ部分にはまっていて、軟骨の保護で滑るように動いていますが、膝蓋骨の脱臼や亜脱臼が起きると部分的に接触したり過度な摩擦がかかり、軟骨がすり減ってしまうのです。進行すると骨まで変形してしまうこともあります。膝蓋骨の脱臼や亜脱臼はジャンプから着地で筋肉が強く収縮したときや膝蓋骨を強く打ちつけたときに起こりますが、そもそも生まれつき膝蓋骨がずれやすい骨の形や腱の位置だということが関係しています。
【どんな治療法?】
病院での治療は痛み止め薬の処方やヒアルロン酸注射などを、一時的に痛みを緩和する目的で行います。原因に対する処置ではないので、併せて膝への負荷が増えないように運動療法を行うことが大切で、膝蓋骨の脱臼を予防する意味でも大腿四頭筋のトレーニングは有効です。また、ヒアルロン酸注射や運動療法だけでは痛みがコントロールできない場合は、変形性膝関節症で広がりつつある自己細胞を用いた膝の再生医療も選択肢のひとつになるでしょう。ただし、進行度や痛みの強さによっては手術が検討されます。ひとつは人工関節置換術ですが、脱臼を予防するために行われる手術もあります。
こちらも併せてご覧ください
▶膝の再生医療のわかりやすいコラム
滑液包炎(かつえきほうえん)
【どんな人に多い疾患?】
・最近、膝を強く打った覚えがある
・正座をよくする
・痛風や関節リウマチを患っている
【どんな疾患?症状は?】
関節には、骨や筋肉や腱の摩擦を軽減して動きを滑らかにする、滑液包という袋状の組織が複数存在します。膝蓋骨の前あたりにも膝蓋前滑液包があり、膝の上もしくは膝頭に痛みが生じる場合はここが炎症を起こしている可能性もひとつ考えられます。
滑液包が炎症すると中に余分な液体がたまるため、腫れたり、押すと痛みを伴うこともあります。また、感染を伴う場合は、赤く熱感を伴うこともあります。
【なにが原因?】
ひとつには膝の使い過ぎによる過剰な負荷で、特に膝を曲げた姿勢を頻繁にとる場合によく起こります。他にも膝を強くぶつけるケガや、痛風、関節リウマチ、感染症などでも起こることがあります。
【どんな治療法?】
それほどひどくなければ、膝を曲げる姿勢や負荷がかかる行動を控えることで、次第に治まることも少なくありません。炎症がひどくなると病院での治療となりますが、その場合も穿刺といって滑液包にたまっている水を抜き、ステロイド注射で治療可能です。ただ、繰り返さないためにも膝周辺の筋力維持や生活する上で原因となる行動に気を付けるようにしましょう。他の疾患や感染症の影響の場合は、これらの治療とは別に感染症の治療が必要になります。
変形性股関節症の放散痛
【どんな人に多い疾患?】
・40~50代の女性
・股関節脱臼の経験がある
【どんな疾患?症状は?】
股関節も膝関節同様に、関節にかかる衝撃を和らげたりスムーズな動きになるように、骨の表面は軟骨で覆われています。その軟骨がすり減ることで炎症が起こる病気が、変形性股関節症です。股関節のトラブルですが初期は股関節での症状が分かりにくく、お尻や太もも前面から膝上あたりに痛みを覚える方が少なくありません。こうした問題の部位から離れたところで痛みが出ることを、放散痛と言います。実際に膝のご相談で当院に来院された患者さまでも、膝の診察やMRI画像からは問題が確認できず、股関節の診察と治療に切り替えたケースがありました。進行すると強い痛みや股関節の可動域制限などの症状も現れ、骨が変形すると日常生活がままならなくなることもあります。
【なにが原因?】
変形性股関節症の原因には、加齢や肥満、過去の股関節のケガや病気の影響などがありますが、もっとも多いケースが、先天的な股関節の形成不全によるものです。生まれつき骨盤側の溝が小さくて浅いと、体重を支える力が骨の一部に集中してしまいます。そのため軟骨がすり減りやすいのです。形成不全から起こる股関節疾患は女性に多いため、変形性股関節症も女性に多くみられます。
【どんな治療法?】
治療法は症状がまだ軽度であれば、消炎鎮痛薬の処方と平行して、股関節周囲の筋力トレーニングやストレッチを行う保存療法が基本です。それで改善が見られないなら、股関節の骨を一部切り取り変形した部分に移植する骨切り術や、変形した股関節を人工パーツに置き換える人工関節置換術などの手術が検討されます。
まずは病院で痛みの原因の確定診断を
膝の上が痛いという症状だけでは、このように様々な疾患が疑われます。よく分からない、我慢できないほどの痛みではないといった理由からそのままにしてしまう方もいらっしゃいますが、膝蓋大腿関節症のように原因によっては放置することで進行してしまい、生活が不自由にまで悪化してしまうこともあります。次の3つのうちどれかに心当たりがあれば、迷わず病院を受診しましょう。
・痛みが強くなってきた
・腫れてきた
・3週間以上痛みが続いている
ご不安であれば、当院でもMRIひざ即日診断で詳しく診察・検査を行い原因を突き止め、適切な治療法をご提案することは可能です。セカンドオピニオンも歓迎いたしますので、原因が分からないとお困りの方もお気軽にご相談ください。
コラムのポイント
- 膝上が痛いケースでまず疑われるのはジャンパー膝
- セルフケアでは大腿四頭筋のストレッチやトレーニングが有効
- 膝のトラブルではない場合もあるので、病院で確定診断を
よくある質問
しゃがんだときに膝のお皿のあたりが痛いのですが、マッサージは効きますか?
膝のお皿のまわりをほぐすことで痛みの緩和が図れるかもしれません。
膝のお皿である膝蓋骨は、太ももの筋肉の大腿四頭筋とすねの骨の脛骨に腱でつながっていて、膝を動かすときは膝蓋骨も一緒に動いています。しかし、膝蓋骨に関係する組織が硬くなりお皿の動きが悪くなると、しゃがんだり膝を曲げ伸ばすときにも違和感や痛みが出ることがあるのです。その場合、膝蓋骨の周りをマッサージでほぐすことで症状が緩和されることがあります。
膝のお皿のマッサージは、優しく膝のお皿を動かすというものです。両手の親指や人差し指で膝のお皿を挟み、左右や上下にゆっくり動かします。膝を曲げていたり太ももに力が入っているとお皿が動きづらいので、膝を伸ばし、太ももは脱力した状態で行います。皮膚を伸ばすだけではなく、お皿を動かすを意識しましょう。
しゃがんだときや膝の曲げ伸ばしでの痛みは、変形性膝関節症の代表的な初期症状です。この病気は安静にするだけでは良くならず、放置すると日常生活をしているだけでも進行してしまいます。痛みが続くようであれば<お電話>でも<ご予約フォーム>からでも構いませんので、一度ご相談ください。MRI画像でもしっかり膝の中を確認して、状態に合った治療法や生活する上で気を付けることなどをアドバイスさせていただきます。
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