中高年世代の多くの人々が罹患する代表的な関節疾患“変形性膝関節症“。「変形性膝関節症にならないためにはどうしたらいい?」「変形性膝関節症の進行を予防するために何をすべき?」といった疑問をお持ちの方も少なくないと思います。
今回は、そんな変形性膝関節症の予防方法に関するみなさまの素朴な疑問に専門医がお答えします。
目次
変形性膝関節症を予防するための基礎知識
予防方法を紹介する前に、変形性膝関節症について必要な知識をおさえておきましょう。
変形性膝関節症とは
60代以降に多く、潜在的な患者数は3,000万人以上と推定されており、他人事にはできない国民病の一つです[1]。変形性膝関節症は、膝関節にある軟骨がすり減ることから始まります。軟骨は関節の負担を和らげるクッションのような役割があるため、すり減ってくると半月板の変形や滑膜が炎症を起こし、膝に強い痛みが生じるようになります。末期になると骨まで変形し、階段の昇り降りや歩行など日常動作が困難な状態になってしまいます。放っておくと知らないうちに病状が進行してしまうので、予防や早期発見が大切です。
変形性膝関節症の症状については下記コラムも併せてご覧ください。
▷【症状のチェックリストあり】変形性膝関節症の症状や治療法についてのコラム
一度すり減った軟骨は再生する? しない?
まず軟骨が自然治癒するかどうかということについてですが、軟骨は血管や神経などの組織がないため、自己再生能力はとても乏しく困難と言えます[2]。
そうなると、変形性膝関節症を予防・治療することで、すり減ってしまった軟骨を元に戻すことはできるの? と誰しもが考えるでしょう。ただ、現在のところ、一度すり減った軟骨は再生しないというのが医学的な共通認識です。再生医療などの医療技術の発達が目覚ましい昨今、治療後に軟骨の厚みが増したという症例もごく少数はあるようですが、統計学的にも信頼できる数値とはまだ言えません。
だからこそ、軟骨を損傷しないよう、またダメージを大きくしないよう、予防することがとても重要なのです。以下で取り上げる変形性膝関節症の予防に関するアドバイスを参考に、膝の健康を少しでも長く維持できるようお役立てください。
予防① 歩き方を改善
歩き方ひとつでも、膝への負担は大きく変わってきます。まずは、膝に負担のかかりやすい歩き方をご紹介しましょう。正しい歩き方を意識づけることで、膝への負担が軽減されます。
正しい歩き方のポイント
ポイント1:まっすぐ前を見て歩く
顔をあげて前を見て歩くことで、前傾姿勢を予防します。
ポイント2:下腹部に力を入れる
下腹部の中央に少し力を入れると、背筋が伸びやすくなります。
ポイント3:前に出す足は伸ばす
膝を曲げたまま前に出すと、筋肉をうまく使えていないので、膝への負担が大きくなってしまいます。前に出す足の膝はきちんと伸ばして、筋肉を適宜使うようにしましょう。
ポイント4:歩幅は「身長 −90cm」
通常、歩幅は「身長 −100cm」程度と言われていますが、膝を伸ばして歩けば歩幅は広がり、有酸素運動としての効果もアップします。無理は禁物ですが、プラス10cmを目安に意識してみましょう。
ポイント5:軽く腕を振る
腕を振ることで、足が前に出やすくなります。そのため、腕を振るよう心掛けることも、膝への負担を軽減に効果的です。
こんな歩き方の人は要注意!
膝に負担のかかる歩き方にはいくつかパターンがありますが、ここでは、変形性膝関節症の人でよくみられる「好ましくない歩き方(膝の負担が大きくなる歩き方)」の例をご紹介します。変形性膝関節症では、痛みに関連した歩き方になる可能性があり、最終的にはその歩行パターンに慣れてしまい、腰や足首といった他の部位にも影響を与えかねません[3]。ご自身の歩行動作の振り返りにご活用ください。
➀身体が左右に揺れる「トレンデレンブルグ歩行」「デュシェンヌ歩行」
お尻の外側にある中殿筋(ちゅうでんきん)や小殿筋(しょうでんきん)は股関節を安定させる役割があります。しかし、それらの股関節外転筋(こかんせつがいてんきん)の筋力が低下すると、歩行時に支えきれなくなり、身体が横に揺れたような歩き方になることがあります。
そういった特徴的な歩き方には、トレンデレンブルグ歩行とデュシェンヌ歩行の2種類が存在します。トレンデレンブルグ歩行とは、片足をあげた状態のときに軸足とは反対側の骨盤が下がってしまう歩き方のこと。もう一方のデュシェンヌ歩行は、骨盤が下がらないように身体を軸足側に傾ける歩き方をいいます。
言葉での説明だとイメージしづらいかもしれませんが、どちらも左右に身体が揺れ、まっすぐスムーズに歩くのが困難な状態です。これらは変形性膝関節症で筋力が低下した場合に多くみられます。
②前傾姿勢になる「大腿四頭筋の代償歩行」
重心を前に倒した歩き方に、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。これは、太もも前面の筋肉、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の筋力低下によって起こります。片足に体重を乗せた状態のときに体幹を前傾させると、大腿四頭筋への負荷を代償して膝を伸展させることが可能です。また、重心を前方に移すことで、筋収縮も抑えることができます。ただしその分、体重が乗りやすく、膝への負担が大きくなってしまうので、要注意です。
紹介したこれらの歩き方は筋力不足からくるものなので、原因となっている筋力の強化と正しい歩き方を意識づけることで膝の負担を軽減させることができます。
歩き過ぎは良くないってホント?
筋力維持(強化)、肥満解消、血流促進など、ウォーキングには変形性膝関節症の痛みを緩和したり、進行を予防する作用が期待できます。ウォーキングが膝痛の発症頻度の低下と関連していたと報告する海外の研究もあります[4]。また、歩いた歩数が1日当たり1000歩増えると、変形性膝関節症の人の歩行に関する機能障害のリスクが17%減るといった研究結果の報告もあります[5]。
ただし、やり過ぎは禁物。診療でお話を伺っていると、1日10,000歩を目標に頑張っている人がたまにいらっしゃいますが、変形性膝関節症を患っている場合、膝への負担が大きくなっていると考えられます。年齢や膝の状態にもよるので一概には言えませんが、1日5000歩くらいまでが適当と言えるでしょう。また厚労省の「健康日本21」というプロジェクトでも、70歳以上の高齢者では、男性6,700歩、女性は5,900歩が目標とされています[6]。
歩行時に膝が痛い方は以下のコラムも併せてご覧ください。
▷歩くと痛いは膝からのSOS!医師が語る原因とぶり返さない方法
予防② 運動で筋力強化
筋トレやストレッチは有効な予防法の一つです。ここでは、お家でできる方法をいくつかご紹介します。
筋トレ①「膝の曲げ伸ばし運動」
膝関節の骨の運動性を高めるウォーミングアップに最適な筋トレ方法です。ウォーキングなど、他の運動の前に行うこともおすすめです。
①椅子に深く腰かけ、姿勢を正します。
②2秒かけて膝を伸ばし、また2秒かけて曲げるという動きを、片足ずつ行います。
③準備体操なら20回を2セットずつが適当です。
筋トレ②「タオルつぶし運動」
大腿四頭筋は太ももの前側の筋肉です。膝に加わる衝撃を吸収する役目を担うこの筋肉を鍛えることで、膝への負担軽減が期待できます。
①バスタオルを1枚用意し、コンパクトに丸めます。
②そのタオルを、伸ばした足の下に置きます。膝が伸び切る人は膝のお皿より太もも側に、伸び切らない人はふくらはぎ側に調整ください。
③つま先を天井に向け、タオルをつぶすイメージで膝が伸びるよう、太もも前側に力を入れます。そして5秒キープ。
④これを10回3セット行います。
さらに筋トレやストレッチ方法が知りたい方はこちら
▷【動画有り】変形性膝関節症に効く! 室内で簡単にできる筋力トレーニング
予防③ バランスのとれた食事
膝関節に直接作用したり、変形性膝関節症が治る食べ物は残念ながら存在しません。
ただし、体の調子を整えたり、膝のコンディションを整えるのに運動療法は不可欠。その運動を快適に行うための体調管理において食生活は重要なファクターと言えるでしょう。また、変形性膝関節症の原因である、筋力低下や肥満、女性ホルモンなどに対し、少なからずアプローチできるのは確かです。そういった原因をつくらないためにも、バランスのとれた食事と運動は重要です。
食べ過ぎに注意! 肥満が原因で変形性膝関節症になることも
膝関節と体重は大きく関係しています。膝関節には立ったり、歩いたりするだけでも体重の2〜3倍の負荷がかかると言われています。つまり、体重が増えるとその分、膝にかかる負担は大きくなるのです。
肥満体型の人は変形性膝関節症になりやすい傾向にあります。また、筋肉量低下と体脂肪量の増加を伴うサルコペニア肥満の場合、変形性膝関節症が重症化しやすいということを示唆する報告もあります[7]。変形性膝関節症を予防するうえで、健康的な食生活と運動で適正体重を保つことは非常に重要です。
Q. 変形性膝関節症の予防にサプリメントは有効?
手軽にできる対処法として、サプリメントを思い浮かべる人は少なくないでしょう。
結論から言うと、変形性膝関節症の予防という点では、あまり意味があるとは言えません。
例えば、グルコサミンはN-アセチルグルコサミンに変換されなければ軟骨成分の材料になりません。また、コンドロイチンも腸管での吸収効率が悪い傾向にあります。実際にも、グルコサミンとコンドロイチンが膝関節へ及ぼす影響はないという研究結果が出ています[8]。
また、II型コラーゲンやヒアルロン酸は経口摂取しても分解して吸収されるため、体内でその成分が増えるとは思えません。実際、これらのサプリメントにおいて、医学的な効果の証明はなされていないのです。つまり、グルコサミンやコンドロイチンのサプリメントを毎日飲んだからといって、変形性膝関節症の予防にはならないと考えられます。
Q. 膝サポーターに予防効果はある?
変形性膝関節症は、筋力低下や靭帯の衰えによって起こる膝のぐらつきが原因で発症します。理論的には膝がぐらつかないよう固定すれば、進行を食い止めることはできるというわけです。
ただ変形性膝関節症の場合、膝のぐらつきだけでなく、加齢や筋力低下、肥満などといった根本的な要因が関係してきます。つまり、サポーターを着用するだけでは、予防や進行を遅らせることはできないのです。
サポーターは膝を固定し、膝関節の働きを助けるアイテムです。着用することで、歩行時のぐらつきや、膝の痛みの緩和が期待できます。そのため、変形性膝関節症の予防に効果的な運動(ウォーキング、筋トレ、ストレッチ)を行う際の補助として使用すると良いでしょう。
サポーターについては以下のコラムでも詳しくご紹介しています。
▷膝サポーターは変形性膝関節症に効果的?【効果・選び方・デメリット】
変形性膝関節症を予防していつまでも健康に
変形性膝関節症は進行性で一度かかると完治は困難です。ただ一方で、予防することができる病気でもあります。まずは、正しい歩行や筋力維持など、できることから少しずつはじめてみましょう。
変形性膝関節症の疑いがある方は、下記のリンク、もしくはお電話にて当院へお気軽にご相談ください。膝の専門医・スタッフがサポートさせていただきます。
コラムのポイント
- 一度すり減った膝軟骨は再生しないので予防が大切
- 食べ物やサプリメントで変形性膝関節症は治らない
- バランスの良い食事や正しい歩き方の意識や、膝周りの筋トレ運動が効果的
よくある質問
10代や20代でも、変形性膝関節症になることはあるのでしょうか?
若い人でも膝に大きな負担がかかり続けると、変形性膝関節症になる可能性があります。
変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減っていくことで、痛みが生じます。若い人の場合は肥満やO脚、激しいスポーツなどが原因となるケースが多いです。若くても膝へ大きな負荷がかかり続けると、軟骨はすり減っていきます。また、ケガなどによる半月板損傷や靭帯損傷、骨折などの疾患が原因となって起こる場合もあります。
予防対策としては生活習慣の改善(ダイエット)や、靴の見直し(膝に負担がかかるハイヒールを履く機会を減らすなど)をしましょう。また、筋力がないと膝への負担はかかりやすくなるため、適度な運動やストレッチをしていただくこともおすすめです。
参考
- [3]∧Prachiti Bhore, Sandeep Shinde. Effect of multi-component exercises program on pain-related gait adaptations among individuals with osteoarthritis of the knee joint. J Educ Health Promot. 2023; 12: 138.
- [4]∧Grace H Lo et,al. Association Between Walking for Exercise and Symptomatic and Structural Progression in Individuals With Knee Osteoarthritis: Data From the Osteoarthritis Initiative Cohort.Arthritis Rheumatol. 2022 Oct;74(10):1660-1667.
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