変形性膝関節症の手術というと人工膝関節置換術が代表的ですが、高位脛骨骨切り術も変形性膝関節症の手術のひとつです。膝の痛みが強くなってきている方には、ぜひ早めに知っておいていただきたい治療法ですが、人工膝関節置換術に比べると出回っている情報が少ないかもしれません。
そこで、整形外科医がこれまでの経験も踏まえて高位脛骨骨切り術の情報をメリット・デメリットも含めてわかりやすくお伝えします。
目次
高位脛骨骨切り術とは?
高位脛骨骨切り術は変形性膝関節症の手術の一つです。日本人に多い内側の軟骨のすり減りによるO脚変形の場合に、すねの骨である脛骨を切って下図のように骨の向き合う角度を変えることで、膝関節の内側の軟骨のすり減りや変形を最小限にする目的で行われます。今回はこの高位脛骨骨切り術について詳しく解説していきましょう。
■手術方法
手術方法はオープンウェッジ法、クローズウェッジ法のいずれかが選択されます。オープンウェッジ法は、脛骨の内側を切って開いた隙間に人工骨を挿入する方法です。一方のクローズウェッジ法は、脛骨の外側からくさび状に骨を切り取ることで角度を整えます。クローズウェッジ法がより大きい角度を矯正することができますが、オープンウェッジ法の方が身体への負担は抑えられます。近年ではオープンウェッジ法が主流となっており、手術時間は1時間半ほどで、膝下の内側を5~7cmくらい切開してアプローチします。
■適応外の患者さまの特徴
高位脛骨骨切り術は、下記のような方が適応外になります。
①変形性膝関節症の進行が末期の方
変形性膝関節症が末期まで進行している場合、この手術の効果が出にくい傾向にあります。
②関節の外側が痛んでいる方(X脚の方)
関節の外側の軟骨がすり減ってしまっている場合は受けることができません。その場合は、太ももの骨である大腿骨を切る手術「遠位大腿骨骨切り術」の適応となります。
③靭帯を損傷している方
膝関節の靭帯を損傷していると膝が不安定な状態になるため、この手術を受けても症状が改善されにくいことがあります。
④骨粗しょう症の方
骨がもろい状態だと、骨を切った部分が癒合(周りの骨にくっつくこと)しない、もしくは癒合が遅れる可能性があります。
⑤70歳以上
個人差がありますが、一般的には高齢になるほど変形性膝関節症の進行しているケースが多いため、70代以上の方が適応外になることは少なくありません。実際、下腿の骨切り術の件数を年齢別で見た場合、70代以上で急減しています[1]。
高位脛骨骨切り術の長所(メリット)
膝の痛みの軽減の他に高位脛骨骨切り術であげられる長所(メリット)は、アクティブに仕事や趣味に取り組む方々にとって適応があります。
■メリット①関節を温存でき、人工物が体内に残らない
高位脛骨骨切り術では、本来の関節を温存することができます。骨を切った部分を固定するために金属製のプレートやスクリューを使用しますが、人工骨の癒合後に金属は取り外します。スクリューが入っていた穴も時間をかけて骨で埋まっていくのでご安心ください。
■メリット②スポーツなど活動性の高い患者さま向き
人工関節置換術のような術後の活動制限は設けません。人工骨が癒合したあとは、痛みに応じて加減しながらになりますが、スポーツ活動が許可されます。アスリートの高位脛骨骨切り後のスポーツ復帰率に関して、75.3%という報告もあります[2]。手術によって生活スタイルを変えたり、仕事や趣味をあきらめなくていいことも、高位脛骨骨切り術の長所(メリット)と言えるでしょう。
高位脛骨骨切り術の短所(デメリット)
どんな手術にも、長所があれば短所もあります。それを理解していないと、術後の後悔にもつながりかねません。高位脛骨骨切り術の短所(デメリット)についてもきちんと触れておきましょう。
■デメリット①回復・リハビリに時間がかかる
ひと昔前は骨盤から骨移植しギブスで膝を固定するという方法で行われていましたが、ここ10年ほどで人工骨の使用や金属プレートでの固定になり、入院期間はぐんと短くなりました。それでも3~5週間ほどの入院は必要で、関節機能を取り戻すため、退院後も骨が完全に癒合するまでの数か月間はリハビリを継続して筋力の回復に努めなければなりません。また、人工骨が癒合する術後3~6ヶ月くらいまでは、歩いたり体重がかかったりすることで痛みを感じます。
日常生活への復帰目安として、デスクワークなら退院後から可能です。スポーツ復帰にはその程度にもよりますが、1年弱くらいはかかるとお考えください。
■デメリット②膝の痛みが完全になくなるわけではない
人工骨が完全に癒合しても、膝の痛みが完全にはなくならないこともあります。なぜなら、すり減った軟骨が元に戻るわけではないため、変形性膝関節症の痛みが残るからです。
高位脛骨骨切り術で関節の内側にかかる負担は軽減されるため、軟骨が痛むスピードを遅らせる効果は期待できますが、変形性膝関節症の進行自体を食い止めることはできません。
高位脛骨骨切り術と再生医療の併用に期待
患者さまの年齢がある程度お若く、中等度の変形の場合、整形外科医としては関節が温存できる骨切り術をご検討いただきたいと考えています。
骨切り術の意義は、人工関節に至るまでの時間を遅らせることです。骨切り術後15年以上にわたって、対象の半数以上が人工関節にすることなく過ごせていたという報告もあります[3][4]。近年では、高位脛骨骨切り術に再生医療を併用することで、さらなる治療効果を期待する研究結果も報告されています[5]。
患者さまの希望に応じた最善の選択のために
変形性膝関節症には人工関節以外の治療があることがお分かりいただけたと思います。治療の選択肢は確実に増えています。当院にも膝の痛みでお悩みの方からの多くのご相談があります。今後もさまざまな情報を常にアップデートしながら、患者さまには常に幅広い選択肢の中からベストな方法をご提案したいと考えています。変形性膝関節症の治療法でお悩みなら、まずはお電話でも「初めてのご来院予約」からでも、お気軽にご相談ください。
コラムのポイント
- 高位脛骨骨切り術の長所(メリット)は「自分の関節を残せる」
- 短所(デメリット)は「膝の痛みが完全になくなるわけではない」
- 高位脛骨骨切り術と再生医療の併用に期待
よくある質問
高位脛骨骨切り術で左右の足の長さが違ってしまったりしないでしょうか?
切り取る骨は少しなので、違和感が出るほど足の長さが変わることはありません。
高位脛骨骨切り術は骨を切り取る手術なので、手術しない方の足と比べて短くなってしまうように感じるかもしれませんが、本来あったはずの正常な関節のすき間を確保するための手術です。そのため、骨を切り取るといってもほんの少しなので、足の長さに影響するほどではありません。ご自身で気づくほどの長さの違いは生じないので、ご安心ください。
参考
- [2]∧Ryo Kanto,et al. Return to sports rate after opening wedge high tibial osteotomy in athletes. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021 Feb;29(2):381-388.
- [3]∧Gstöttner Michaela, et al. Long-term outcome after high tibial osteotomy. Archives of Orthopaedic and Trauma Surgery; Volume 128, Issue 1, pp 111–115. 2008.
- [4]∧Catherine Hui, et al. Long-Term Survival of High Tibial Osteotomy for Medial Compartment Osteoarthritis of the Knee. The American Journal of Sports Medicine. September 10, 2010.
- [5]∧東海大学「先進医療|細胞シートによる関節治療を目指した臨床研究」2022-11-15参照
人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」
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