膝の痛みの原因のひとつに、骨壊死が関係していることがあります。原因に関わらず痛みの放置は避けるべきですが、この骨壊死も例外ではなく、早期の治療が明暗を分けます。それはなぜなのか。そして早期に発見するためには何をすればいいのか。ヒントとなる骨壊死が疑われる膝の症状や原因、治療法の情報を交えつつ、整形外科専門医がわかりやすく解説します。
骨壊死が疑われた場合の対応が見えてくると思うので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
膝の骨壊死とは?症状の特徴と気になる原因
骨壊死とは、文字通り骨の細胞が壊死してしまっている状態のことを言います。膝関節の場合、太ももの骨の大腿骨内側に起こることが多く、これを大腿骨内顆骨壊死(だいたいこつないかこつえし)と呼びます。大腿骨内顆骨壊死は60代以上の女性に多くみられますが、50代以上になると発症率はぐんと高まる膝の病気です。
初期であれば骨の形状に大きな変化があるわけではなく、レントゲン写真では確認が難しいため、変形性膝関節症と間違われることも少なくありません。しかし徐々に痛みが強くなる変形性膝関節症とは異なり、進行すると壊死部が陥没するため急激に痛みが強くなります。
骨壊死で膝に起こる症状をチェック
代表的な症状としては、歩いているとき膝の内側が急に強い痛みに襲われるというものがあります。何か変だな?という違和感から徐々に痛みが出てくるのではなく、突然の激痛に見舞われるのが骨壊死の特徴です。
他にも階段の上り下りや重いものを持った時など膝に荷重がかかるシーン、膝の曲げ伸ばし時にも痛みが生じます。また、初期でも安静にしていたり夜間に寝ているとき急に痛みが出ることや、膝の内側の圧痛や水がたまって膝が腫れるなどの症状が現れることも珍しくありません。
<骨壊死の症状例>
□ 歩行時に膝の内側に激痛が走る
□ 階段や膝を曲げるときにも痛みがある
□ 夜は痛みが増して寝られない
□ 膝の内側を押すと痛い
□ 膝が腫れてぶよぶよしている
きっかけは膝関節内の小さな骨折?骨壊死の原因
骨壊死は何らかの影響で血液が通わなくなり、骨の一部が壊死してしまうことで起こります。ステロイド薬を頻回に使用していたり、過剰なアルコール摂取が常態化しているような人に多く見られますが[1][2]、大腿骨内顆骨壊死は特発性骨壊死とも呼ばれ、これといってきっかけがない例も少なくありません。つまり、原因が分からないことが多いのです。
特発性の骨壊死は中高年の女性に多く発症することから、加齢で骨が脆弱になっているところへ膝関節への過剰な負荷の蓄積が重なり、軟骨下骨折(軟骨下の軽微な骨折)を起こしていることが原因ではないかとも考えられています[3]。また、海外の論文では、膝の内側半月板の後ろ側が断裂してしまう内側半月板後角損傷が、特発性骨壊死の原因の約80%を占めるという報告もあります[4]。
骨壊死が放置NGな理由① 変形性膝関節症の合併リスク
膝の骨壊死は、初期だとレントゲンに映りづらいので見逃されがちです。しかし、膝に痛みがあるなら放置せず、原因を追究することが重要になります。その理由のひとつが、骨壊死と変形性膝関節症との関係です。
当院の症例においても、変形性膝関節症と骨壊死を併発しているケースは少なくありません。こちらの膝のMRI画像も骨壊死と変形性膝関節症の所見が確認できます。理由は、変形性膝関節症で軟骨がすり減ったり半月板がつぶれて機能しなくなり、骨への負担から軟骨下骨折や骨壊死を合併することがあるからです。また逆に、骨壊死を発症すると壊死部から関節液が骨の内部に浸潤し、それが進むと関節面が陥没してしまいます。関節面に異常を来した膝関節の変形速度は速く、重度の変形性膝関節症を合併することが非常に多いのです。
変形性膝関節症は発症すると進行を止めることはできない病気です。末期ともなると痛みだけでなく関節の変形も大きくなり、日常生活がままならなくなってしまいます。つまり骨壊死に気づかず放置することは、こうしたリスクを一気に高め、そして早めることになるのです。
骨壊死が放置NGな理由② 治療法が選択できないリスク
骨壊死の範囲が小さい初期に診断できた場合は、薬やリハビリによる保存療法で痛みを治すことができます。しかし、保存療法で壊死部が修復したり骨が再生することは基本的にはありません。6ヶ月ほど保存療法を続けても痛みが治らなかった場合や、受診した時点ですでに骨壊死が広範囲かつ痛みが重度の場合は、手術適応となります。レントゲン検査では初期に気づくことが難しいため、原因不明のまま放置してしまい、わかった時には手術しか選択できないというケースも考えられるわけです。
そもそも骨壊死した膝の治療法としてはどういったものが選択できるのか、その内容をお伝えしておきます。
【保存療法】膝の負担を減らし痛み軽減をサポート
保存療法では、まず患部に荷重がかからないようにする対処が必要です。骨壊死の場合は荷重をかけて歩行すること自体が悪化リスクになるため、可能な限り松葉杖などを使用し、壊死のある膝関節に体重をかけないような生活をすることが望ましいのです。同様の目的で足底板(靴の中敷き)を併用したりもします。また、消炎鎮痛剤や湿布、ヒアルロン酸注射などで一時的に痛みを緩和しつつ、膝関節周辺の筋肉(大腿四頭筋やハムストリングス等)の筋力トレーニングでも膝関節にかかる負荷の軽減を図ります。
骨壊死は自然治癒しないので保存療法で完治させることはできませんが、膝への負担を減らすことで壊死部の周囲が硬化して安定するため、痛みを感じにくくなっていきます。また、早期に安定化させることで、骨壊死の進行抑制や手術を回避することも期待できます。
ヒアルロン酸注射や筋トレのコラムも併せてご覧ください。
▷ 膝のヒアルロン酸注射はいつまで続けるべき? 効かないときの対処法
▷ 【動画有り】変形性膝関節症に効く! 室内で簡単にできる筋力トレーニング
【手術療法】荷重の偏りを矯正 or 傷んだ部分を取り除く
骨壊死の手術には、高位脛骨骨切り術と人工関節置換術の2つの方法があります。これらは変形性膝関節症が進行した場合にも検討される方法です。
高位脛骨骨切り術は、すねの骨を切って角度を調整することで膝関節の内側のすき間を広げ、壊死した大腿骨の内側への荷重ストレスを軽減する手術です。自分の関節を残すので手術前と同じように生活できる半面、痛みを完全になくせないこともあります。
一方の人工関節置換術には、関節全体を人工物にする全置換術と、関節の片側だけを施術する単顆置換術があり、大腿骨内顆骨壊死では外側はダメージがない場合もあるため、単顆置換術を選択することもあります。痛みの原因を取り除くため、痛みのない生活が高い確率で望めますが、自分の関節を失うことにより、術後の生活に制限があったり、再手術のリスクも伴います。
どちらもメリット・デメリットがありますが、やはり当院の患者さまのお話を伺っていても、手術への不安から踏み切れないという方は少なくありません。
膝の手術については、変形性膝関節症の手術のコラムが参考になります。
骨壊死に再生医療という選択肢はある? 治癒はできる?
近年では、患者さまご自身の脂肪や血液を活用した再生医療も、膝の痛みの治療法として注目をされています。骨の欠損まで至った場合、再生医療でも骨を再生するのは難しいと考えます。しかし、骨欠損に至る前の状態であれば、再生医療の組織の修復を促す作用によって進行を抑制し、骨の陥没を免れるケースもあるでしょう。
また、骨壊死と変形性膝関節症の合併ケースでも、膝の痛みという症状に関しては大幅な改善が見受けられます。こちらは再生医療の抗炎症作用の働きが大きいと考えられ、痛みスコア(最大の痛みを100とした痛みの指標)が治療後には40スコア以上低減したケースも複数あります。
ただ、すべてのケースで痛みが改善されるわけではないので、再生医療をご検討するにしてもその膝の痛みに再生医療が有効かどうかを、まずMRI検査で診断することをおすすめします。
原因に適した治療を受けるために…MRI検査の重要性
このように、再生医療で痛みの症状を大きく改善できるケースは少なくありません。しかし、先にもお話したように、骨壊死で欠損した骨までを再生する作用は、現時点ではまだ考えにくいと言えます。やはりベストなのは、早期の段階で痛みの原因に適した治療を始めることでしょう。そのために重要なのが、MRI検査です。レントゲンでは初期の骨壊死を確認することが困難なので、もしレントゲンで異常がなくとも骨壊死の症状に心当たりがあれば、MRI検査を検討されることをおすすめします。
当院ではMRIひざ即日診断で原因を追求し、今後どうしたら良いかについてわかりやすくご提案しておいます。気になる方はぜひご活用ください。
コラムのポイント
- 膝の骨壊死は変形性膝関節症に合併するケースが多い
- 自然治癒はしないが、初期なら保存療法で痛みの改善が期待できる
- 初期はレントゲン写真ではわかりづらいのでMRI検査が重要
よくある質問
貴院のMRI検査はどのような流れで受けられますか?
ご都合の良い日程で、検査や診断が待ち時間なく受けられます。
膝関節のMRI検査は、撮影だけだと20分ほどで終了します。それに事前の説明や問診などを含めても、1時間半ほどみていただければ十分です。その後、ご予約の日時に当院で整形外科専門医の診察と診断となります。
当院のMRI検査は、検査専門の施設と連携して行っております。そのため大学病院や総合病院のように長い期間、検査の順番待ちをすることなく予約できます。もちろん、当日も検査や診察に待ち時間が生じることはありません。
MRIひざ即日診断の流れは、こちらの動画も参考になさってみてください。
参考
- [2]∧Junya Shimizu et al. Susceptibility of males, but not females to developing femoral head osteonecrosis in response to alcohol consumption. PLOS ONE. 2016 Oct.
人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」
変形性膝関節症の方、慢性的なひざの
痛みにお悩みの方は是非ご検討ください。
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