後十字靭帯損傷は、症状が出にくい(比較的早期に回復する)こともあり治療されないケースも少なくないのですが、下手に放っておくと膝の不安定感などの後遺症が残ってしまうので要注意です。競技のパフォーマンスが受傷前の状態に戻らなかったり、将来、変形性膝関節症など他の疾患を合併してしまうリスクもあります。
大切なのは、状態を正しく理解し、適切に対処すること。この記事が、後十字靭帯損傷の病態を理解し、正しく対処するための一助になれば幸いです。
目次
後十字靭帯とは
後十字靭帯は、大腿骨と脛骨の中心部をつなぐ2つの靭帯のうちの1つで、後方に位置することからその名で呼ばれています(前方に位置するものは「前十字靭帯」です)。
「膝の軸」とも言われ、膝関節の中で最も強く大きい靭帯です(前十字靭帯の1.5〜2倍の厚みがあり、強度も10%程度強いです)。
後十字靭帯の役割は膝の安定性を維持すること。大腿骨に対して脛骨が後方に飛び出さないように食い止める働きがあります。
後十字靭帯損傷の原因・症状
後十字靭帯損傷とは、後十字靭帯の全部、または一部が断裂した状態です。交通事故やスポーツ(ラグビーやサッカーなどコンタクトプレーの多いスポーツ)で受傷するケースが多いです。
原因
損傷を受けるのは、脛骨(すねの骨)に前方から強い力が加わった時です。脛骨が後方に強く押されることで後十字靭帯が引っ張られ、損傷を受けます。
よくある契機としては、以下が考えられます。
● 転倒で硬いコンクリートなどに脛(すね)をぶつける (自転車転倒やバイク事故)
● 自動車事故でダッシュボードに膝をぶつける
● スポーツ時に強い力で膝が人や地面に衝突
症状
受傷直後は強い痛みがあり、その後腫れが見られます。こうしたはっきりした症状が見られるので、それを契機に受診へと繋がることが多いです。ただ、レントゲン上は骨に異常が見られないことから「打撲」と診断され、経過観察されることも少なくありません。実際、炎症がおさまれば可動域が回復し、歩けるようになることもあります。
しかし、長い目で見るなら靭帯の損傷はなるべく早く察知し、早期から適切な対処をとることが大切です。
<後十字靭帯損傷で見られる主な症状>
具体的な症状 | 見られる時期 | |
痛み・腫れ | 炎症と腫れ、それに伴う痛み、膝後面の圧痛(押した時に感じる痛み)があります。 | 急性期(受傷直後) |
可動域制限 | 患部の腫れに伴って、可動域の制限が生じます。ただ、腫れが引いてくると制限は軽快します。 | 急性期(受傷直後から2週間程度) |
不安定性 | 炎症が治まった後に見られることがあります。日常生活に支障がある場合は再建手術も検討します。 | 慢性期 |
膝崩れ | ジャンプの着地、階段の昇降、ダッシュを行った時などに起こりやすい。慢性的な症状です。 | 慢性期 |
考慮すべき後遺症
後十字靭帯損傷は、放置すると後遺症として膝の不安定性が残り、競技はおろか日常生活動作にも支障が出たり、将来変形性膝関節症を発症したりといった二次的な障害に発展する可能性もあります。
急性期を終えても膝に違和感が残るような場合はMRI検査やセカンドオピニオンを求めるなどして精査し、しっかり治療することが大切です。
治療法
後十字靭帯は前十字靭帯と比較して太く、血流も豊富なので、靱帯の修復は行われやすいと考えられます。よって軽度であれば保存療法で経過観察し、回復状況を見ながら運動療法(リハビリ・筋トレ)を併用します。
保存療法
完全断裂ではない場合や膝の後方動揺(後ろの方にズレる感じ)がさほど大きくない場合は、基本的には保存療法を選択します。
受傷直後は安静、アイシング、圧迫、拳上(患部を心臓よりも高い位置に置くこと)などの基本的な処置を行いつつ、受傷から数週間はサポーターを装着します。サポーターは、半月板損傷や軟骨の擦り減りを引き起こす「膝くずれ(膝が抜けてガクッとなる症状)」の予防に役立ちます。
運動療法(リハビリ・筋トレ)
膝の安定化を図るため、太ももの前面にある大きな筋肉(大腿四頭筋)の筋力トレーニングを行います。
以下で、効果的なリハビリの例をご紹介します。
【①:まず四つん這いの姿勢をとります】
この時、ケガをしている方の膝は地面から少し浮かせるようにしてください(この図では、右足を負傷した場合を想定しています)。この姿勢になることで、膝から下の部分が前方に降りてきます(つまり、膝が後方にずれた状態を回避できるのです)。
爪先はしっかり地面を捉えるようにしてください。
【②:爪先でしっかり地面を押し込みながら脚を伸ばします】
脚を伸ばす時、大腿四頭筋に力が入っていれば正しく行えています。伸びきったら力を抜いて元に戻してください。
膝の後方へのずれ込みを防いだ状態で太ももの筋肉を鍛えることができ、後十字靭帯損傷のリハビリ(筋トレ)としては効果的です。これを10〜20回×3セットを目安に、痛みと相談しながら行います。
注意
しゃがみ、正座、膝立ちなどの動作は症状を悪化させる危険性があるので、絶対に行わないようにしてください。
手術療法
膝の不安定性が大きい場合は手術療法(靭帯再建手術)を選択します。断裂した靭帯に、別の部位の腱を移植する方法です。どの部位の腱を移植するかは医師の判断になりますが、採取しても支障の少ない部位が選ばれます。
全治(スポーツ復帰)までどれぐらいかかる?
手術した場合、入院期間は約3週間。
術後2日目から杖歩行が可能で、1週間後には杖なしで歩行できます。
術後3カ月ごろから少しずつランニングを開始でき、スポーツは6ヶ月後から再開可能に。競技への復帰は8〜12カ月後がおおよその目安になります。
新しい保存療法=再生医療の可能性
最近、早期の競技復帰を望むアスリートの間では、低侵襲な治療で靭帯組織の修復が期待できる「再生医療(PRP療法)」が選択されるケースも増えてきました。
PRPとは血液中の血小板に含まれる成長因子のことで、炎症を抑えたり、組織の修復を後押しする効果が期待されています。
PRP療法は、従来の保存療法と手術治療との間を補完するような位置付けとお考えください。当院ではこのPRPに含まれる成長因子を濃縮し、保存が効くフリーズドライ加工したもの(PRP-FD注射)をご提供しています。
このPRP-FD注射はプロスポーツ選手にも提供されており、ケガをした時の保険のような形で活用されています。
当院の再生治療に興味のある方は、まずはMRI検査で適応診断をお受けください。
治療の適応と期待できる効果について、専門医が詳しくご説明します。
▶MRIひざ即日診断
PRP-FDのスポーツへの活用事例(※当院ではセルソース社のPRP-FDを採用しています)
コラムのポイント
- 後十字靭帯損傷は激しいコンタクトプレーのあるスポーツや交通事故などを契機に発症
- 後十字靭帯損傷は適切に治療しないと後遺症が残ることもある
- 新しい治療法として再生医療が注目されており、アスリートの治療に用いられる事例も増えている
よくある質問
後十字靭帯損傷は必ず手術をしないとダメですか?
軽度であれば、手術することなく保存療法で回復する可能性があります。
後十字靭帯の一部断裂で、膝が後ろのほうにズレる感じがあまりない場合は、サポーターを装着し、膝の安静、アイシングなどの処置を行います。回復してきたら膝を安定させるために、筋トレなどの運動療法も取り入れます。軽度だからと言って放置してしまうと、膝が不安定になる後遺症が残り、日常生活に支障をきたす可能性もあるため、注意が必要です。しゃがみ、正座、膝立ちなど、症状を悪化させる動作もあるため、必ず医師の指示に従ってトレーニングを行いましょう。
後十字靭帯が完全断裂したり、膝が後ろのほうにズレる感じが大きい場合は、靭帯再建手術を行います。
人工関節以外の新たな選択肢
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